地下鉄丸ノ内線といえば,僕の年代ならば当然,“赤い電車に白い帯,その中にはサインウェーブ”だろう.
 本当の子供の頃に乗物の絵本で見た数々の情景のうちで強く印象に残っている情景の一つが,御茶ノ水の風景と,そこに登場する“真っ赤な車体に白い帯,その中にはサインウェーブの電車”.なにしろ大阪生まれの子供にとっては,そもそも町のど真ん中にあんなに深い渓谷があるわけないと思ったし,ましてや地下鉄が鉄橋で川を渡るだなんて,とても信じられなかった.
 そんな丸ノ内線のユニークな電車も,本線上から姿を消して久しい.事務所の堀口嬢など,東京近郊育ちとはいえ年代が違いすぎてそんな電車の存在など知らないだろうと思ったのに,“よく覚えてますよユニークでしたから”だと.電車趣味などない女の子にも強い印象を与えていたのだと,再確認させられた.
 なぜそんな話題が,といえば,東京地下鉄から“今の主役である02系電車にサインウェーブが復活しました”との案内を頂いて披露会にお邪魔してきたから.
 もっとも,同社のサイトで見ることができるニュースリリースでも“丸ノ内線車両に懐かしのサインウェーブが復活いたします(2010年1月14日付け)”とあるにも関らず,サインウェーブの復活は今回の主な目的ではない.
 登場してから20年以上を経過した初期車の制御装置をチョッパからインバータに更新すること,併せて主電動機を日本のインバータ制御車に一般的な非同期誘導電動機ではなく永久磁石同期電動機を採用したこと,そして客室もリニューアルを施す……というのが主な目的であって,サインウェーブの復活は,いわば更新車の目印といったところだろう.

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みごとに復活した丸ノ内線のサインウェーブ.流石に“赤い車体”までは実現しなかったが.有楽町線・副都心線用の10000系では前照燈と尾燈のケースに旧丸ノ内線用300形のライトケースを模したデザインを採用したり,警笛も昔の空気笛を復活させるなど,東京メトロ内部ではネオクラシック(?)が流行なのだろうか.

詳しい紹介は2月発売の本誌を楽しみにお待ちいただくとして,ここではその取材に際して訪れた,中野富士見町の車庫に今も生きている,“真っ赤な車体に白い帯,その中にはサインウェーブの電車”の面影をご覧いただくことにしよう.

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階段の横にあるエレベータのドアは,正しく旧丸ノ内線電車の再現.取材陣の誰かが“室内がピンクなら完璧……”とつぶやいたら,東京メトロのスタッフの目がさりげなく輝いたから,もしかしたら次の訪問時には……いや,まさかでしょう.

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2階の廊下には,さまざまな古い部品コレクションを展示するケースが置かれている.で,目を上に移動すればそこには旧丸ノ内線300形の絵が.そこには“赤い貴公子”という素晴らしい愛称が.

※これらコレクションやエレベータは,東京地下鉄の敷地内に存在しており,残念ながら,通常は外来者への公開を行なっておりません.掲載した写真は,今回のお披露目会に際して同社の許可を得て撮影したものです.

お披露目会は,車輛の外観から始まって車内へ.
 入ってビックリ.内張りがピンクに変更されているではないか.300形ほど濃くはなく,現代にマッチした色調にモディファイされているけれど.
 ここまで徹底すれば,もう本物(なにがだ?).なんだか,新型車を導入するたびに新しいカラーデザインを採用するものの,いつのまにやらトラディショナルな色遣いに戻ってしまうベルリンのSバーンのことが,頭の中に浮かんでしまった.

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300形に比べればずっと淡いものの,紛れもないピンク.それは腰掛け袖仕切りの腰掛側や,天井の冷風吹き出し口両脇の内張りと比べることでより明白になる.

東京メトロでは,間もなく登場する15000系や16000系でも復古調デザインを見ることができるはず.しかしシステムは最新.その,ある意味アンバランスな感覚,僕は大好き.