前回は日本に数少ない3フィートナローの廃線跡をご案内したが,今回は日本最大のナロー路線の廃線跡,ではなく写真と車輛研究を纏めた新刊が出ます,というお知らせ.
 具体的には,25年にわたって刊行を続けてきた湯口 徹さんの[私鉄紀行]の最終刊,レイルの番号でいえば71号と72号である.
 昭和59/1984年に東北編の“奥の細道”が出て以来,なんと25年もかかってしまったことになるが,とにかく北海道から九州まで,非電化で旅客営業を行なっている私鉄の各線を網羅した文献としては,他に例を見ない大巻となったこのシリーズ.僕が纏めを担当するようになったのは平成12/2000年の“丹波の煙 伊勢の径”と題した近畿地方編から.その3年後に“北陸道 点と線”として北陸編をまとめ,さらに7年を経て,ようやくゴールに到達したわけである.
 この間に世の中の情勢や環境は大きく変化した.いわゆる神戸の大地震は,湯口さんのお仕事上も毎日の生活にも大きな影響があったのは間違いない.そして,“北陸道”の後書きに登場し,その後増殖を続けつつある“鎌鼬(かまいたち)”は,湯口さんの意気を喪失させる重大な事件だった.そんなこんなの要因があって,“次から次へと…”というわけには参らなかったのである.

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本日,見本が出来あがってきた“黒潮と小さな汽車の通い道”と題するレイル71号の表紙.写真はいわずと知れた静岡鉄道駿遠線の,俗称“蒙古の戦車”.

“まえがき”の文中に《編集部の度々(などというものではなかった)のご督促》などと書かれてしまったが,これは恥ずかしながら事実であって,お目にかかるたび,電話でお話しするごとに,“東海編はいつになりますか”と申し上げ続けてきた.“まえがきの表現,もう少しなんとか……”とお願いを校正の時にしてみたのだが,遂に修正していただけなかった.それほどに僕の“催促”は身に堪えられたのだろうか.大先輩に対して申し訳ない次第だけれど,ただひたすら,早く世に出したいという願望の顕れであると,ここで釈明しておこう.

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71号の本文写真から,やはり“蒙古の戦車”DB609が牽く列車.

意外なことに,駿遠線の車輛が詳細に語られるのは,湯口さんによれば今回が初めてのことだそうだ.あれだけの大私鉄でありながらと思うが,湯口さんの原稿を読むほどに“それも無理はないわなぁ,と思うようになった.変遷流転改造が著しく,よほどの執念がなければ,全貌を語ることは無理なのだった.そのすべてを,間もなくお読みいただけることになる.12月20日過ぎの発売をお楽しみに.

駿遠線以外では,大井川鉄道の井川線,遠州鉄道の奥山線,東濃鉄道の笠原線を収録している.東濃鉄道は,湯口さんらしからず,たった一度の訪問に終わったそうで,最後ままで“いれるの,止めますか?”と問われ続けたが,“それでは画龍点睛を欠きます”とお願いして,入れていただいた.機関車を大井川鉄道井川線から譲り受けているという繋がりもあるし.地域的には題名の“黒潮”とは全く無関係だが,多治見付近を流れる土岐川の水は庄内川を経て伊勢湾に流れ込み,やがては黒潮に溶け込んで…….

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遠州鉄道奥山線 奥山駅の風情.この路線がどのように成立して,相当な輸送量があったにも関らずあっさりと廃止されてしまったのはなぜか.湯口さんの原稿を読んで,初めて信実を知った.

駿遠線が上巻と下巻に分断されてしまっているのだが,全体のボリュームのバランスを見極めた結果であるとご理解いただければ幸いである.

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下巻の表紙の最終校正状態.“のどか”とはちょっとイメージの異なるラッシュアワーの情景を,あえて表紙にした

上巻下巻とも定価は本体3,800円+税(=3,990円).どうぞよろしくお願いします.