蓄電池電車といえば,古いファンなら宮崎交通を思い出すだろうか.凸型の機関車や,キハ40000を改造した3輛の蓄電池電車チハは,日本での一般営業鉄道用としては唯一の蓄電池駆動車輛かもしれない.同線が車輛とともに国鉄に引き継がれていたなら,僕もその姿を見ることができたのかもしれないが,残念なことに昭和36/1961年に廃線になるとともに廃車となってしまった.
 あるいはまた,ドイツファンなら“葉巻”などと呼ばれたETA175(後の517)やレールバスを思いっきり長くしたETA175(後の515)の姿が頭に浮かぶかもしれない.これも,僕が初めて訪独した時点では健在であり,見ることができたなずなのだが,残念ながらそのチャンスに恵まれなかった.ETA175はルール地方のボーフムとバイエルンのネルドリンゲンで動態保存されているから,その気にさえなれば出会いを求めることは可能だろうが.
 さて,本日,JR東日本の大宮総合車両センター(元の大宮工場)で走行風景が公開されたのは,元を辿れば,平成15/2003年に“NE-Train”ことキヤE991として製作されたハイブリッド気動車.
 平成19/2007年秋には燃料電池を使ったハイブリッド試験車に改造してクモヤE995と改名していたのだが,今回は電池をリチウムイオンに変更,電力変換装置も一新しての再登場というわけである.形式はクモヤE995とされており,これまでと変らないが,実はキヤE991を燃料電池ハイブリッド車に改造するに際して除籍されており,今回改めて再登録することになっているのだという.だから,燃料電池ハイブリッド車のクモヤE995は,登録上は“車輛”ではなかったということのようである.

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クモヤE995として再登場した,元のキヤE991.外観上の最大の変化はパンタグラフが新設されたことと,側窓が一部埋められて換気口となったこと.
大宮総合車両センター 平成21/2009-10-29

今回の外観上の最大の変化は,上の写真でも判る通り,側窓の一部が埋められて換気口になったこと.大量のリチウムイオン電池を室内に搭載したため,廃熱の必要が生じたのだそうだ.
 もうひとつは,片端にアームに角パイプを使ったシングルアームパンタグラフが取り付けられたこと.形態からはPS35Cにも思えるが,停車中に大電流を通電する必要があることから“試作形”とされており,さらに電磁鈎外し装置を備えるから,形式は異なっているはず.

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リチウムイオン電池が大きなスペースを占める室内.この体積と重さの克服が,今後の大きな課題だろう.ちなみに電池のメーカーは,鉄道総研が開発中の蓄電池電車“ハイトラム”と同じ,ジーエス・ユアサ製.基本的な仕様も同じかもしれない.

蓄電池は車内に9ユニット(合計163kWh)搭載されている.そこから発する電気を変換し制御する装置は三菱電機製で,ケースにはXSCとだけ形式名が記されていた.主電動機はキヤE991時代と同じ,MT73をベースにして電圧を600Vに変更した試作品のようである.
 蓄電池走行での性能は,最高速度100km/h,後続距離は平坦区間で停車時の消費電力を含まないという条件で約50kmと発表されている.ということは,途中駅での充電が必要になるわけで,そのあたりの技術は……と思ったら,すでに鉄道総研では“ハイトラム”とともに,架線からの急速充電装置を開発しているではないか.
 そういえばJR北海道でも“モーターアシスト式”と称するハイブリッド気動車を開発中である.このあたり,互いに技術情報を開示して共同開発というわけにはいかないものだろうか……と思うのは素人だけであって,実際にはすでにそういう体制が出来上がっているのかもしれないけれど.
 いずれにしても,これからの順調な開発進捗を,大いに期待したいものである.

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パンタグラフを降下したまま走っている風景を撮ってみたのだが……これでは,たまたまこの車輛のパンタグラフが降りているだけで,後方から押されているのだといわれればそれまでだ.本線での試運転が始まったら,もっと広い場所での撮影にチャレンジしてみよう.