すでに新聞やTVで報道されている通り,9月12日から13日にかけて,大宮の鉄道博物館に0系新幹線電車が運び込まれた.
これまでこの鉄道博物館には,交通博物館から引き継がれた0系電車の前頭部はあったものの,1輛まるごとは保有していなかった.“東日本鉄道博物館”ではなく“鉄道博物館”なのだから,元祖新幹線である0系電車は必須の保存アイテムであるはずなのに,である.正確には,この春に交通文化振興財団から運営を移管された青梅の鉄道公園に1輛,22-75が保存展示されてはいるけれど…….
0系電車が現役を引退したのが昨年5月のこと.残っていた0系電車は各部に手を入れられていて,原形を保っていたとはいいがたい姿だった.それになにより,側窓がオリジナルデザインの大窓ではなく座席1列に小さい窓がひとつという,マイナーチェンジ後のバージョン.これでは“元祖新幹線”とはいえないではないか.
0系電車で今後の扱いが決まっていない先頭車はもう存在しない,と,思っていたら,昭和39/1964年の日本車輌支店製で,昭和52/1977年の廃車後も吹田の関西鉄道学園で教材として使われていた21-2があった.
関西鉄道学園はJR西日本に引き継がれたけれど,教材としては現実にそぐわなくなったことや,施設のリニューアルに際して支障する(同じ理由によって,C59
166が解体された)とかの理由で引受先を探していたJR西日本と,保存車輛を求めていた鉄道博物館の双方の思惑が一致して,関東へ移動しての保存が決まったというわけである.そのようなわけで大宮総合車両センター(元の大宮工場)に到着したのが昨年の8月であった.
今年の春からは展示に向けての整備が始まり,列車名標や号車札挿しなどが再現され,埋められていた車体側面の非常口を復活させ,塗色はもちろんアイボリーと青20号に復元…….と,いうことで,このほどほぼ完成し,これまでの建物の南側に新設された展示棟に収容された,というわけである.
大宮総合車両センターと鉄道博物館とは,もとはといえば同じ敷地.いまでも博物館の直横に試運転線があって,試運転車輛の汽笛や気笛やタイフォンが鳴り響いて来館者を驚かせている.それに博物館がオープンする前,展示車輛は線路を使って展示館に搬入されたではないか.というわけで,今回もそうなるかと思ったのだけれど,大宮では新幹線車輛を扱っていないから,構内に1,435mmゲージの線路は敷かれていない.
では仮台車を使って……と,懲りもせず妄想してみたものの,“試運転線の架線柱が……”“どっちみち,仮台車に載せるにも降ろすにもクレーンが必要なのですから”というわけで,ほんの僅かな距離だけれども,車両センターの正門から博物館の大物搬入口まではトレーラー車での陸送,ということなのであった.
敷地のすぐ横をニュートラムと新幹線の線路が走っている,ということは,陸送を深夜零時にスタートして,クレーンの作業は始発電車が通過するまでに終える必要がある.
ということで,搬入当日,朝からの怪しげな空模様を気にしつつ晩ご飯を食べ,終電近くに大宮へ向けて出発したのだった.
現場では博物館広報担当のMさんや学芸員のOさん,JR東日本の本社広報の面々など,旧知の皆さんが待っていてくださった.“天候が……”と心配を話ししたら“風さえなければ多少の雨でも決行です.時間がないということもありますが,基本的に雨は作業の大きな障害ではないのです”とのこと.
日付が変ってすぐに台車が到着し,小手調べとばかりに軽々と吊り上げられて仮線路の所定の位置に.

最初の台車が到着.搬入場所が行き止まりなのでトレーラーは搬入口で反転しバックでクレーンの前に.
この調子なら順調に作業が進むか……と思ったのだけれど,車体はなかなか到着しない.“車両センターの門を出るところ”という報告が入ってから進展しないのだ.聞けば切り返しを何度もやってるとのこと.現場からのレポートでは,ガードレールや植え込みを避けるのに手間取っていたのだという.車両センターへの到着時には外されていたスカートを取り付けての搬出なので,勝手が違ったのだろう.
ようやく搬入口から“丸鼻の電車”が姿を見せたのは,午前2時まであと僅かという頃のことである.

ようやく姿を見せた21-2.この写真ではまるで自分で線路の上を走っているように見える.
ここまで来ても,まだ安心できない.仮線路までの間には柔らかい土の傾斜地があって,そこにはトレーラーが地面に沈まないよう,鉄板が敷いてあったのだ.雨上がりでまだ濡れている鉄板を上がるのに一苦労.トレーラーが空転してしまって,何度もやり直す羽目になったのだった.無事に上がり切るまでには5分以上を要したろうか.

やっと坂道を克服した21-2.画面右手に見えるのが新築された展示棟.背景はニュートラムと新幹線の高架橋である.
建屋の中に引き込まれた21-2は,直ちに仕上げ作業に着手.この鉄道博物館のほかの展示物と同様,車輛だけでなく,その時代の場面を見せる,というポリシーに従って,開業セレモニーの時の東京駅ホームを再現するという.
一般公開は10月21日の午後4時15分から.もう間もなくである.
