ペンタックスといえば,ペンタプリズムとクイックリターンミラーを備え,35mmフィルムを使う一眼レフカメラを世界に先駆けて実用化したメーカーである.昭和32/1957年のことだった.
実は,僕の一眼レフカメラの最初もペンタックスであった.当時の最廉価モデルであるS2.交換レンズなどは手を出せるはずもなく,標準1本のみ.
その頃の売れ筋はセルフタイマー付きSVか,最高峰のスポット測光露出計を備えたSPから露出計を省いたSLに移っていたが,なにしろ中学生.それも親を騙すような手段で手にしたものだから,我が侭はいえない.
その後,約8年間にわたって使い続けた.交換レンズはついに自分では購入できなかった.“テレコン”を手に入れただけである.標準レンズ1本しかないということで,作画の制限はキツかったけれど,随分鍛えられたといえるかもしれない.途中から友人に“永久貸与”としてプリセット絞り(! もう死語ですよね)の135mmを使うようにはなったが.
先週お目に掛けた福知山線の“ナシ臨”の写真も,もちろん,そのS2で撮影したものである.
そのS2は,ぶつけてピントが狂うという事故と,何処だったかのネジが弛んで外れたという障害を除けば,昭和52/1977年に中古のニコンF2を手に入れるまで,35mmカメラの主力として活躍した.
ペンタックスはその間に,一眼レフの6×7版カメラを熟成させ,ユニークなメーカーとして一世を風靡した.この6×7版,“でかペン”とか“ばけペン”とか呼ばれて鉄道写真好きにも愛され続けていることは,皆さんご存じのとおりである.残念なことに間もなく製造中止になってしまうそうだが.
そんなペンタックスも,時代の波にもまれていまでは光学ガラスの老舗HOYAの一部門となってしまった.しかしカメラ部門は健在で,*ist-Dに始まるデジタル一眼レフカメラは,Kシリーズへと発展し,今年の6月にはAPS-Cサイズの約1,500万画素の撮像素子を持ち,秒間5コマ以上の連続撮影性能を有するフラッグシップ機であるK-7を発表するに至っている.
そして今日,また新しい機種が発表されるというので,“とれいん”10月号の無事完成を確認してから,会場の六本木へと向かったのだった.
なんだこれは!と,僕も思った.まるでベネトン(イタリアのファッションメーカー).20色のボディカラーに5色のグリップカラーを組み合わせて合計100色!
その名は“K-x”.性能的にはAPS-Cサイズの約1,240万画素の撮像素子(CMOS),秒間4.7コマの連続撮影性能,ISO感度200~6,400,再校シャッタースピードは1/6000だから,中の上のクラスに匹敵する,鉄道写真にも大いに活用できそうなスペックでもある.しかしこのお遊びは…….いや,まて.
赤と白の組み合わせなら“京急”.青なら“京浜東北線”.緑と黄色なら“湘南電車”.黄色はもちろん総武線.茶色は“旧国”か“阪急”か,はたまた“旧客”か.濃い青ならいうまでもなく“ブルートレイン”.銀と緑は“山手線”…….好きな車輛の色のカメラを持つというのも,悪くないではないかと,発表会が終わる頃には思いはじめた僕である.
環状線に中央快速線に,総武線に京急…….今までの一眼レフカメラの概念を打ち破った発想.しかも限定生産ではないというからすごい.
気になるお値段だが,予想される市場価格はボディ+18-55mmズームレンズのセットが70,000円弱,55-300mmズームレンズを加えたダブるズームセットが90,000円弱.
かつての大量生産本位から,小回りのきく工場体制に切り替えができたことによって実現した,この,途方もないチョイスシステム.流石に受注生産方式で,なおかつ日本国内のみということではあるが.カメラ販売店の店頭での注文のほか,ウェブからも発注できる.標準納期は2~3週間とのことである.
この日のゲストの一人,レーシングドライバーの片山右京さんだった.ラリーで原野を疾駆している時や,趣味である山登りの途上で見る“宇宙に近い濃紺の空”が大好きということで“ブルー”のボディをチョイス.
レギュラーカラーは,黒のほかに赤と白が用意される.この場合,白と赤はレンズの色もコーディネイトされる.気分が変ったらボディカラーも衣更え……には応じられないそうである.ちょっと残念かも.でも,そんなこと対応していたら,ペンタックスは大騒ぎになること必定.
さて,発売開始予定の10月中旬まであと約一月.昔を思い出して,家族に内緒で予約に走る……?