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私が最初に買った外国型の蒸機は赤い大型スポーク動輪(2000mm)に、ヴィッテ式のデフレクターがよく似合う西独のBR01(ROCO製)でした。私はヴィッテ式が特に好きで、除煙の効果どうこうは抜きにしてあのスピード感ある流麗なスタイルが好きなのです。それに比べて普通のデフレクターは蒸機のチャームポイントである煙室部分を覆ってしまいますから、野暮ったいうえに物足りなく感じます。なので同じBR01でも、東独のモノはあまり興味がありません。まぁ、以上はあくまで主観ですが。

さて、次に購入したのが米国グレートノーザン鉄道(GN:Great Northern Railway)のS-2(天賞堂1987年製)でした。これを購入するきっかけになったのは『とれいん』(1975年8月号)の“モデルアラカルト その3 PFM製品とそのGNグリーンロコ”(筆:山内 昇氏)です。P38に大きく山内氏のコレクションであるS-2が掲載されています。これを初めて見たときには衝撃を受けました。「こんなに美しい蒸機があったのか・・・」

大型80インチ動輪と、煙室前面に移された複式コンプレッサー2器、シルバーの煙室に深緑で光沢のあるボイラー、そしてオキサイドレッドのキャブ屋根、そして極めつけは軽快感のあるヴァンダービルド型テンダー(水槽部が円筒形のもの)に美しく貼られた“ビリーゴート”(雄山羊)のヘラルド・・・ 後に実車とはあまり似ていない事を思い知らされるのですが、これはこれで模型として非常に美しいと思いました。あ、ついでに雄山羊はhe-goat(愛称でbilly goat)、雌山羊はshe-goat(愛称でnanny goat)、子山羊はkidです。シカゴカブスの“ビリーゴートの呪い”は有名ですね。

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GN好きを決定づけた“モデルアラカルト”のS-2の写真
 
その時、対向のモノクロページに掲載されているアーティキュレイテッド機(関節機関車)にも目が釘付けになりました。スポーク動輪にベルペア火室という英国チックなスタイルは中型機程度までは見慣れていましたが、巨大機だと異様です。米国でスポーク動輪とベルペア火室を愛したのはGNとペンシィ(PRR:Pennsylvania Railroad)程度です。ペンシィでさえ、大型機はベルペア火室を捨て、ボックス動輪になっていますから見慣れないのも当然でしょう。この後、大型機はおとなりノーザン・パシフィック鉄道(NP:Northern Pacific Railway)との共同持株会社であるスポーケン・ポートランド&シアトル鉄道(SP&S:Spoken, Portland & Seattle Railway)から買ったZ-6 2輛のみ。これはアルコ-スケネクタディ(Alco-Schenectady)製で近代的なスタイルでしたが、すでに蒸機の増備をほとんどせず“自社風”を好んでいた現場には、馴染まず、すぐにSP&Sに再売却されてしまいました。ボールドウィン(Baldwin)と自社製に慣れてしまったのでしょう。
 R-2はロッキー越えのためR-1の増備として自社工場のヒルヤード(Hillyard)で作られています。これはミシシッピー川以西で作られた蒸機としては最大です。粘着牽引力は142,055lbs(ポンド)ですから、約63,924kg(1ポンド=0.45キロ)です。これは国内最大の牽引力を持つE10(21,700kg)のなんと3倍です。米国蒸機のパワーに圧倒されつつ、なんか米国らしからぬスタイル。GNの蒸機はそういう面でも魅力的なのです。
 写真のR-2はどうもノーマルの黒&銀塗装のようですが、この本が出た前年に初めてグリーンボイラーを纏う“グレーシャー・パーク・グリーン”(Glacier Park Green)版が製品化されたようです。国内では“グレーシャー・パーク・カラー”と呼ばれていますね。カラフルなアーティキュレイテッド機は私の大好物です。ダルース・ミサベ&アイアン・レンジ鉄道(DM&IR:Duluth, Missabe & Iron Range Railway)のM-4や、サザン・パシフィック鉄道(SP:Southern Pacific Lines)の旧キャブフォワード、NPのZシリーズのグレーボイラーも良いですね。これら大型機が派手なボイラージャケットを羽織ると、まるで筋骨隆々の大男が化粧をしたみたいで面白いのです。ドラァグクイーン(drag queen)に一脈通じる魅力というか・・・

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グリーンボイラーにオキサイドレッドのキャブ屋根、“ビリーゴート”のヘラルドというGNの魅力が天賞堂らしい美しい塗装で表現されている

 
そんなR-2を手に入れた時はとても嬉しかったものです。結構な入手難でしたし、値段のほうもお高かったですから。購入したあと、家に持ち帰りしばらく眺めました。私が入手したのは最終製品となった1980年製のグレーシャー・パーク・グリーン塗装のものです。70年代から80年代前半にかけては天賞堂に腕の良い塗装職人がいらっしゃったそうで、塗膜の美しさには惚れ惚れします。これが1987年製のS-2になると火室が柚子肌であまり美しくありません。組立の方も、ハンダの回っていない部分が多くなり、少し残念な出来です。

模型から先に知ることになったGNの蒸機ですが、そうなると実車のことも知りたくなるのが人情です。私はしばらく『とれいん』のお世話になりましたが、分からない事の方が多くなりました。そこで松・謙氏が社主を勤めていた時代に何か良い本がないか質問したところ「ああ、それならLINES WESTだな」とのこと。そうか、ラインズウエストね。ラインズウエスト、ラインズウエスト、ゴーゴーウエスト!と、ドリフの西遊記を思い出しながらニンニキニキニキ♪探していると米国の洋書目録に『LINES EAST』というのがありました。
 え?ウエストだよな?と思って不思議に思いましたが、とりあえず注文したところ、これはディーゼル時代を主に取り上げた本でした。あれ~? こんな本だったっけ?確かS-2が表紙だったよなぁ、おかしいなぁ・・・
 そして後日、『LINES WEST』を発見しました。別の本だったのです。
 
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『LINES WEST』(Charles R. Wood著)と『LIENS EAST』(Patrick C. Dorin著)(いずれもSuperior刊)
 
この2冊はGNファンとしては持っておくべきでしょう。他にもGNのエンパイアビルダーである James J. Hill のご尊顔が麗しいあの本がありますが、それはまた別の機会に・・・

これらの本を捲っているとふとした違和感に襲われました。

「なんか天賞堂のGNと違う・・・」

形式によって差はありますが、どれもどこか印象が異なるのです。特にS-2などは模型のボイラーが寸胴なのに対し、実車はテーパーもきつく、車輪ももっとボイラーに落とし込まれています。軽快感よりは重量感の方が勝るスタイルです。これは少しショックでした。

さらに追い打ちをかけたのが、Video Railsの『Great Northern』シリーズのVol.1~3を購入して家で見た時でした。どれもとても汚い! 戦前は綺麗だったという話もありますし、『LINES WEST』には美しい写真もたくさん掲載されていますが、蒸機晩年の映像が多いこのビデオに出てくる蒸機はもうグリーンなんだか、黒なんだか分からないぐらいに汚れている。これは大ショックでした。天賞堂の美しい機関車とは全く別物だ・・・

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VHS『Great Northern』(Video Rail発売)のパッケージ。天賞堂のイメージを覆す映像の数々が込められている(笑)
 
そして極めつけが10年以上前に発売されたChallenger ImportsのS-2です。色が全く違います。グリーンはもっと艶がなく、明るい感じです。以前から韓国で製品化されているGN蒸機はこういう塗装が多く、何か嫌な塗装だなと思っていましたが、上質の製品をリリースするチャレンジャーにこの塗装で出されてしまうと、心底ガッカリしました。まるで「お前の彼女は実はこんなブスだぞ」と言われたようで・・・ 私のGN熱が一気に冷え込みそうになりました。

ではいま、天賞堂のGN製品は嫌いか?というとさにあらず。今でも大好きです。あの製品群(グリーン塗装)は私好みの「あっさり・しっかりした作り」「艶のある塗装」という条件を十分に満たしているからです。むしろ似て貰っちゃ困ります。そりゃ、現役のGN蒸機を目の当たりにした人にとっては天賞堂製品はちゃんちゃらおかしいでしょう。しかし、私にとってはこっちの方を先に知ってしまったのです。これは決してグレートノーザンの蒸機ではない。天賞堂の“GN製品”なのです。

そういう割り切りが出来ない人が多いのでしょう。今、天賞堂の4F(エバーグリーンショップ)に行けばグレーシャー・パーク・グリーンの蒸機がゴロゴロしています。しかも、私にとってみれば捨て値のような価格で。R-2もありましたよ。私が購入した時の半値を大きく下回る価格です。それでも売れないそうです。趣味は人それぞれですから、趣向にまで口出しするつもりは全くありません。しかし、私の感性は本当に少数派なのだなぁ、と思い知らされたのは事実です。

私もペンシィやSP、C&Oなどは実車に似ている模型を好む方で、最近の製品も持っていますが、GNだけは“天賞堂のGN”の方が良い。惚れてしまったんだから仕方ないのです。
 そういえば、ある模型店でGN製品が格安で売られていたので品定めしていると「天賞堂のGNなんか要らねぇよ。似てないんだもん」と店員に話すように、しかし確実に私に聞こえるように話す人がいました。私は欲しいモノを買うだけですから、別に良いのですが、あの人は他の客にも似たようなことを言うのでしょう。気持ちよく買い物している人がその言葉で気分を害することは間違いありません。
 惚れた模型を集めている客にそんなことを言うだけ無粋なのですが、そういう一方的な物言いをする人には分からない。もしかしたら“似てないのに、知らないで買うアホな奴”に見えたのかもしれません。もしそうだとしても大変失礼な行為に違いはありません。私よりふたまわりはお年も召していらっしゃるようにお見受けしました。年長者にはもっと紳士な振る舞いをしてもらいたいものです。そのときは「気の毒に・・・」と心中でつぶやき、店を後にしました。

まぁ、考えてみれば私でさえ鉄道会社や国、時代によって集める模型の傾向、作る模型の種類を分けています。私も決して古モノ一辺倒ではないのです。特に天賞堂のGN製品は一種独特の世界のものですから、今となっては人気がイマイチで取引価格が下がってしまうのは仕方がないのかもしれません。しかし、このブログの読者で、もし似てないという理由で手放す人がいるとすれば、もう一度、よ~く模型を眺めてみて欲しいと思います。

あなたがコレを欲しいと思った理由は似てる・似てないですか?

それでも似てないから要らないという方はご一報ください。状態が良ければ、私が引き取りましょう。捨て値より若干良い価格で・・・